昔、シャボン玉で遊んでいた。
シャボン玉を吹いた時には、小さな玉が無数に飛んでいたのを覚えている。
最初は元気よく飛んでいって、風に身を任せて高く舞い上がった。
そして、最後には綺麗に割れた。
私はお父さんに聞いた。
「シャボン玉はどうして割れるの?」
すると、お父さんがこう答えた。
「未来(みく)がね。シャボン玉に命を吹き込んでシャボン玉は生まれたの!でもね、シャボン玉は命を削って空高くまで飛んで行くんだけどね。だんだんと歳老いて割れて消えてしまうんだよ!」
「でもね!」
お父さんが続ける。
「シャボン玉はね。割れる時に一番輝くの!まるで、割れるのを待ってたかのように。」
「きっと、未来に生んでくれてありがとうって言ってるみたいだね。」
「いつか、未来もシャボン玉みたいに輝いて笑顔でさようならを言う時が来るんだよ。」
「まぁ、お父さんもその時は未来の傍には居られないんだけどね。」
私は、そのお父さんの言葉に恐怖を覚えたのを覚えている。
「お父さん、居なくなっちゃうの?ダメだよ!ずっと未来の傍に居ないと!」
すると、お父さんが…
「未来!よく聞けよ!」
「この世に永遠なんてものは存在しない。だけど、未来が懸命に生きた命は未来永劫に残るんだ!未来の命は宇宙の果てまでいつか届くんだ!」
「人はそれを愛と呼ぶ。愛に溢れている世界には悲しみや苦しみなんてないんだ!」
「未来がいつか、その場所に辿り着いたらお父さんと沢山話そう!未来もその時には大人になってる。お父さんの夢は未来!お前の未来だ。」
私はお父さんの言っている意味が分からなかった。
すると、きょとんする私にお父さんは続ける。
「今の未来には分からない言葉だと思うけど、いつか必ず理解出来る時が訪れるから!」
私には、お母さんが居ない。
私が記憶もない幼少期に他界したらしい。
私は知ってる。
毎朝、お父さんがお母さんの写真の前で手を合わし泣いていることを…
だから、私はお父さんと結婚してお父さんを幸せにしたかった。
まぁ、当然相手にはされていないことは理解出来てた。
お父さんの葬儀が終わると、私は自分が空っぽな人間だとつくづく感じた。
なんだか、お父さんは星の光になって私からどんどん離れていきそうで怖かった。
「お父さん、お母さんに会えるといいね!」
私は心の中でそう呟いた(つぶやいた)。
私はお父さんのことを幸せに出来たのかな?
自信はなかった。
私はお父さんのことを裏切って、違う人と結婚して子供まで授かってしまっていたのだから。
私と旦那は娘に愛と名付けた。
娘が話せるようになってきた頃、私は娘とシャボン玉を吹いていた。
愛が言う。
「シャボン玉ってどうして割れちゃうの?」
私はハッとしたが、冷静に答えた。
「シャボン玉はね!私たちに教えてくれてるんだよ。この世に割れないシャボン玉なんてないって。」
「だから、あんなに一生懸命飛んで。最後に綺麗に輝くの!」
「永遠なんて、この世にない!未来は常に変化するの。でもね、変わらないものが一つだけあるの。」
「それはね。誰かを愛するってことなんだよ。」
私は続ける。
「愛は宇宙の歴史から見たら、一瞬かも知れない。でもね、その愛は永遠に宇宙の果てまで飛んでいくの。」
「人はそれを未来に繋げて、いつか悲しみも苦しみもない世界に変えて行けるの!」
「愛!シャボン玉って愛だと思うんだよね。息を吹き込んで命を吹き込んで、最後には割れる。」
「シャボン玉は最後に一番綺麗に輝く。まるで、笑顔でありがとうって言われてるみたい!」
愛は昔の私みたいにポカンと聞いている。
「愛!今は分からなくてもいい。いつか、この意味が分かる時が来るから。」
「愛がいつかシャボン玉のように割れて輝く時が来たら、愛は星の光になって愛に溢れる世界に行けるから。だから、シャボン玉のように一瞬一瞬を懸命に生きるのよ!」
私はお父さんを思い出して泣いていた。
娘に悟られないように気を付けながら、、、
紅く燃える夕日と共に、シャボン玉が紅く輝く。