鬼になるには後一兔

赤鬼と別れた青鬼は鬼になろうとしていた。鬼になる条件は一つ人を食らう事。

青鬼はいつも考えていた。赤鬼が今幸せである事を。あれから百年経った。青鬼は親友である赤鬼に会いたくて仕方がなかった。寂しかったのだ。しかし、それをしてしまったらせっかく人間と仲良くなれた赤鬼を不幸にしてしまう。鬼の道を選ぶ青鬼と人間の道を選ぶ赤鬼。青鬼は旅の最中であった。

青鬼はずっと探していた。人間になる方法を。一つだけ確かな事は鬼になればこんな苦しみ悲しみから解放される事だ。人間になる方法など人間に聞くのが早かろうて。そう考えはしたものの、人間は聞く耳すらもたなかった。私は鬼だ。私は鬼でかまわない。だから、赤鬼を人間に出来ないものか。この百年その事の為だけに生きてきた。青鬼が人など食らうはずもない。食らった瞬間に理性が飛んでしまう事を知っているからだ。そんな鬼をこれまで見てきた。鬼は試されているのだ。欲に負け鬼になるか理性が勝ち人になるか。

人は優しいだろう。だから、優しい心を持っていれば人になれるのではないか。その証拠に青鬼の二本の角は短くなっている。顔の色だって薄くなって人間と一緒の肌色に近くなってきたのではないかとすら感じる。人間と係わりを持っている赤鬼は既に人と変わらない姿を手に入れているかも知れない。それが気になった青鬼は居ても立ってもいられなくなり、赤鬼の様子を物の陰から見に行く事にした。

赤鬼は人間に苛められていた。やはり、見た目は鬼のままだった。赤鬼は泣いていた。青鬼は正直ホッとしていた。何故なら赤鬼は鬼になっていなかったのだから。赤鬼は辛かったに違いない。寂しかったに違いない。僕とは違っていつでも人を食らえたのにも係わらず、それをしなかったのは人になろうとし続けたからだ。青鬼は赤鬼に百年振りに会う事を決意した。

トントン!赤鬼?キーっとドアがなり赤鬼が家の中から出てくる。青鬼を見るなり号泣する赤鬼。おいおい、君はまた泣いているのかい。赤鬼は涙で青鬼が見えない。青鬼はホッとしていた。泣いている姿を赤鬼に見られていない事に。この二人この百年ずっと感じていた。ずっと二人で居たかった事を。青鬼は赤鬼に説明した。人になれる方法を。赤鬼も気付いていた。ただ、赤鬼の一本の角は確実に伸びていた。赤の濃淡も濃くなっていた。赤鬼はこれまで何度も人を食らおうとしていたのだ。今日君がここに来てくれて本当に良かった。そうでなければ、私は鬼になっていただろう。私たちに生命を与えてくれた方はどうして私たちを鬼として生まれさせたのか、どうして鬼と人を作り出す必要があったのか。この百年考えていた。今、その答えが分かった気がするよ。私たちは人を食らう為に生まれたんじゃない。私たちは人と暮らす為に存在しているのではないか。それはどういう事だと聞くと。人は弱い。全ての生き物中で最も弱い。だから、彼らは協力し知恵を搾り人を想う事を学習した。優しい心を手に入れたんだ。それは人同士に留まらず他者を想う心に変換したと思えるんだ。人と鬼。この世界で最も相容れない関係だと思うだろ?だから、試されているんだよ。もし分かり合えないのだとしたら、人間は滅ぶだろう。人が最も相容れない鬼をも想えるか。鬼は欲に負ける事なく人をさえも想い続ける事が出来るのか。私たち鬼も変わらなければいけない。人も変わらなければいけない。だから、私たちを作り出した方は私たちを鬼にして、人と鬼が存在している世界を作ったのではないか。私はこう考えているのだよ。

それからは様々な事があった。一つ言える事はお互いに学ぶ事が多かった事だ。遂に人と鬼が分かり合える時が来たのだ。鬼は人を食らわない事。人は鬼を迫害しない事を条件に。見た目や性質で異質としていがみ合う事を止めたのだ。

ここまでくるのに数百年かかった。今、赤鬼のお腹には新しい生命が宿っている。赤鬼は言う。あなたは鬼だ。それは変わらない。ただ、他者を想える心を持って生まれてきてね。人のように。青鬼は言う。君の時代は人と鬼が共存出来る世界だ。どうか、これまでに様々な犠牲があったことや未だに分かり合えていない方たちがいることを知って。君の時代では人と鬼が一つの世界で生きれる事を願う。